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振り込め詐欺はなぜなくならないのか [考えさせられるニュース]

振り込め詐欺はなぜなくならないのか


よく話題になるオレオレ詐欺とかって、どうして捕まらないの?電話とか銀行口座とか使ってるんだから簡単に犯人特定できるだろ?と素朴な感覚では思ってしまう。振り込み額の限度制限とか、銀行口座の違法開設規制とか、そういう対応をすればいいし、現にされている。だが、振り込め詐欺の被害額は増え続けている。

これは2014年の8月7日に発表されたデータだ。振り込め詐欺は、対策が浸透した2009年に一旦衰退したように見えたが、再び増加しはじめて現在は過去最高額の268億円になっている。毎日1億4000万円以上の被害が出ている計算になる。

 僕たちの感覚としては、詐欺電話とかLINE乗っ取りとか来たら、むしろおもちゃができたと歓喜してTwitterとかブログのネタにしたりするんだけど、実態としてはたくさんの人、主に高齢者が高額の金を騙し取られている。
 しかし、なんでこんなにたくさんの人が騙され、しかも規制や摘発をしようとしているのに犯人は捕まらないのだろうか。今回読んだ本は、鈴木大介『振り込め犯罪結社』だ。

『振り込め犯罪結社』は、詐欺の実態を記述したすごい本だった。おれおれ詐欺自体は電話一本と口座さえあればいいから一人でもできる。だが、現在の振り込め詐欺は組織化して、それゆえにここまで大きくなった。組織化のメリットは分業ができることで、「分業」によってリスク回避と効率化が可能になった。

 なぜ犯人を捕まえることができないのか、それは犯罪結社の分業があまりにもしっかりしているからだ、末端には何も知らされていないし、下から上の情報をたどれないようになっている。捕まるのは何も知らない使い捨ての下っ端だけ。犯罪結社には役割分担が決まっていて、各自与えられた「仕事」をきっちりこなす。それぞれの役割を紹介していく。


金主…結社の元金を出す人達。詐欺グループに出資し、配当を受け取る。グレーゾーンの資産家などが多い。 番頭格…中間管理職であり、各役割の仲介をしたり、新人研修を請け負ったりする。 道具屋…電話や口座を調達する。 名簿屋…詐欺にかかりやすいターゲットの名簿を調達する。 プレイヤー…電話を担当し、実際の詐欺を行う。演技力が必要になる。 ダシ子…引き出しの「ダシ」という意味。口座に振り込まれた金を引き出す。捕まる確率が高い。ヒエラルキーの末端に所属する人。 ウケ子…受け取りの「ウケ」という意味。役割はダシ子と同じだが、演技力と対面の強さが求められる。口座への振り込みではなく、被害者から直接金を回収する。危険度も高い。


という役割分担がされている。役割が分担されているだけじゃなく、詐欺を行う「プレイヤー」と、道具を調達する「道具屋」「名簿屋」、金を回収する「ダシ子」には接点がなく、お互い相手の情報は何も知らない。


 犯罪結社の仕組みはこうなっている。まず、不良少年、失業者、ワーキングプアなどを集めて「研修」をする。詐欺の技術は高度化していて、被害者役、加害者役、弁護士役、警察役など、シナリオに基づいて役を演じ、「劇場」と言われるクオリティの高い詐欺を演出する。研修でしっかり詐欺のテクニックを叩きこまれ、それぞれ役割をこなしながら技術を向上させていく。

 研修を受けた全員がモノになるわけではない。詐欺の才能がない者もいる。そこで落とされた人はクビか、「ダシ子」や「ウケ子」という危険度が比較的高い仕事にまわされることになる。

 プレイヤーで実績を上げた者は、番頭格という中間管理職に昇進することもある。番頭はプレイヤーをこなしたりもするが、道具屋や名簿屋から必要なものを調達したり、上の金主に話を通したり、ダシやウケを動かしたりする。接点を多く持つが、安全対策はきっちりやるので危険度は少ない。

 道具屋は、ホームレスの名義を借りたり養子縁組の制度などを使って仕事用の電話を確保する。そもそも電話がなければ振り込め詐欺はできないのだが、契約数至上主義の各携帯キャリアは詐欺に使われると(おそらく)わかっていても売ってくれるらしい。これが問題の大本なのかもしれないが、ソフトバンクとかいまだに平気で悪どい商売するし、個人情報も流出させたしね…。

 名簿に関しては、色んなところから質の高い情報が流出するらしい。例えば介護事業として働くホームヘルパーや、相続問題を専門にしている食えない弁護士、彼らは自分たちの待遇に不満を持っているから名簿を流してくれやすい。大手会社の個人情報流出事件は氷山の一角だろう。また、介護つきの老人ホームや住宅サービスなど、訪問販売の体をとって老人から情報を引き出して、騙しやすそうな老人と彼らの詳細な情報を選別して名簿にする。質の高い名簿があれば、孫や子の名前や家族構成がわかった上で詐欺の電話をかけることができる。

 プレイヤーは、安心できる環境で詐欺に取り組める。摘発対策、安全対策は徹底されている。仕事用の携帯を私用で使うことは厳禁だし、自分の身元が割れるようなものは一切持ちこまない。何かあったらすぐに逃げれるように準備もしておく。

 彼らは自分の詐欺の技術を磨くことだけに集中でき、成果次第で高額の報酬を獲得する。だから、かなり真面目に自分たちの「仕事」をこなすようになる。

 ダシという末端の仕事は、金を持ったまま逃げないように家族や住所はしっかりとおさえられる。摘発される危険も多くひどい扱いに思えるが、ダシを志望する人間は山ほどいる。なぜなら、とても楽で簡単な仕事だからだ。ダシの取り分は10%が相場で、ATMから一度金を下ろすだけで20万円もらえる。仕事に就ける能力もない者が努力せずに金をもらえるという点で非常に割の良い仕事なのだ。同じ理屈で、携帯や口座や不動産の名義貸しも協力してくれる人に不足することはない。誰かを脅して無理矢理危険な仕事をやらせる必要はなく、メリットとデメリットを提示した上で「仕事」にとりかかってもらえるのだ。

 ウケというのは、金を回収する仕事だが、ダシと違って口座と通さず対面で金を回収する。振り込め詐欺と言われるが、事態は悪化していて、詐欺で騙せそうにないなら恫喝に切り替える場合があるという。その背景には名簿の進化がある。ターゲットの家族構成や氏名、住所などがわかっているから、それを背景にして相手を脅し、金を直接要求するのだ。もはや詐欺ですらなくなっているのが現状だと言う。脅された相手は問題を金で解決しようとするが、一度金を出した相手からは何度も同じように恫喝して金を引き出し続ける。

 警察を呼ばれたらすぐにお縄なので、ウケは捕まる確率が高いように思われるが、意外にもほとんど警察は呼ばれないそう。相手は報復が怖く、金を絞り上げた後にも脅しておけば警察に通報される確率は低くなる。振り込め詐欺という言葉は実態に追いつかなくなってきている。口座を通さず直接金を回収するし、被害者が警察に通報できないことを考えると、実際の被害額は上のデータよりも多いかもしれない。


 このようなしっかりした分業体制と名簿の進化によって、規制が強化されても振り込め詐欺の市場は拡大し続けている。

 分業と会社化は、暴対法によるヤクザの衰退によって起こったらしい。ヤクザはケツ持ちとして詐欺組織に関わっているが、詐欺に直接加担するということはあまりない。また、ヤクザという組織の体制ではこのような分業は不可能だそうだ。なぜなら、ヤクザの世界はとてもきっちりした縦系列で、末端から上が辿れるようになっている。だが「犯罪結社」の場合は、それぞれの仕事をアウトソーシングして部門ごとの情報を分断することができる。よって、このような効率と安全性を追求した方法が成り立つようになった。

本書を手にとったのは、岡田斗司夫のこの動画を見たのがキッカケだった。

海外の人に日本の振り込め詐欺のことを言うと、「なんでそんなものに騙される知的弱者が大金を持ってるんだ!?」と驚かれるという話を聴いたことがある。社会構造が深く関わっている事件だと言えるかもしれない。
 ここまで振り込め詐欺が大きな仕事になったのは、日本にはそういう犯罪を生み出す構造があるからで、低賃金で働かされる若年層がいる一方、詐欺にひっかかるような高齢者が大金を所持している。

 詐欺をする側の理屈としては、金がない人からさらに金を奪いとろうとするのは最悪だそう。闇金は衰退したが、多重債務者をつくりだして持たない人から微々たる金を搾り取るとか、女を風俗に落として金をとるみたいなことは良くない。一方で、経済が停滞してるのに金を貯めこんで、自分の孫にお願いされたくらいでポンと大金を出せるような高齢者から金を奪うのは、むしろ経済をうまく循環させることになるし、社会に貢献しているというわけだ。

 本書で書かれているのは、これは新人を研修するときに使うロジックだということだ。誰でも最初に詐欺をするときには罪悪感があるから、それを取り除くためにこういう理屈を使う。「普通の人間が詐欺に加担してしまう」と岡田斗司夫が言っていたが、それは研修や説得の技法が確立されているということでもある。お客様は神様だから自殺するまで働いて社長に貢献しろ、というのも、老人を恫喝して金を引き出せれば政治では達成できない世代間の所得移転になるから社会貢献だよ、みたいなことも、ある組織の中でそう言われれば普通の人間でも納得して正当化してしまうものなのだ。証券会社だって同じようなものかもね。


振り込め詐欺のターゲットは高齢者中心となったが、日本の六十歳以上の高齢者が抱える個人金融資産は、全個人金融資産のうち六割を占める。その額、実に九百四十六兆円。一方で、二十九歳以下の金融資産は十兆円。世代人口を無視したデータではあるが、そこに九十倍以上の差がある。  (中略)  様々な犯罪を「加害者側から聞き取る」というスタイルで雑誌記者を続けて、十余年経つ。表のテーマは「警察報道などからは見えてこない犯罪の手口取材」である一方で、裏テーマとして「犯罪現場と貧困」を捉えるようになったのはいつからだろうか。  犯罪の加害者を取材すればするほど痛感することは、あらゆる犯罪の現場には、常に犯罪に手を染めなければ生きていけないような貧困層がいるということ。そして詐欺の集金役や名義人役者は、まさにこの貧困層そのものだった。  (中略)  改めて思う。詐欺組織の隆盛の背後にあるのは、日本の格差社会、高齢者に偏重する資産、末端にまで生き及ばぬ経済回復や、伸び悩む雇用、そして軽視される社会的弱者や子供たちへの福祉だ。  振り込め犯罪「結社」。そんなものを生活の場としなければならないような人々がいることそのものが、日本の真の闇なのだと思う。


本書は優れた本だ。著者が払った努力には頭が下がるが、読んでいて腹立たしい思いがずっとしていた。
 著者は、非合法な手段で世代間の所得移転が進む様を「自浄作用」なのかもしれない、と言っている。一方で、振り込め詐欺はあくまで狡猾な組織犯罪だとも言う。
 僕も、例えばインフレをある程度進めて高齢者から若年層に所得を移転するべきみたいなことは思っている。だが、非合法な手段でそれを達成するべきだとは思えない。騙される高齢者が悪いとはもう言えないだろう。もはや詐欺ですらなく、子供や孫の名前を出されて恫喝されるのだ。最近ではベネッセから名簿が流出したが、そういうことをするための情報が目的だったのだろう。
 劣悪な待遇で高齢者への怒りが溜まった現場労働者、逮捕されるとわかっていても名義を貸してしまう社会的な弱者がいるからこそ、このような犯罪が成り立つ。
 ただ、個人を苦しめるようなやり方で問題を解決しようとするのは絶対に間違っている。どういう事情があるにしても、人を恫喝して金を奪うような人間に喝采を送るべきではない。 


http://skky17.hatenablog.com/entry/2014/09/22/234820

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